白井名人

マスターズチャンピオンは最も獲りたいタイトル。優勝戦前日の記者会見で白井英治がそう言ったとき、少々奇異に感じたものである。SG覇者であり、グランプリウィナーでもある白井が、プレミアムGⅠを最も欲しているということはありうるのだろうか。SGで結果を残してきた強豪が、プレミアムがつくとはいえ、GⅠにこだわりを示す。正直言って、それを聞いた瞬間は本音かどうか疑ってしまったものである。
ただ、黄金のヘルメットに辿り着いた者だからこそ、その境地に至ったのかもしれないとも思った。PGⅠということではなく、マスターズチャンピオンというタイトル。グランプリの頂点を知っている者だから、この特別な一戦に特別な魅力を覚える。それはおおいにありうることだ。
白井が記念戦線に出始めた頃、背中を追いかけてきた先輩たちがまだまだ元気いっぱいに戦っている。しかもあのときに見せていた勝利への執着を微塵も捨てることなく、本気で勝ちにいく姿勢を見せる。時を経て、自分も含めて全員がベテランとなったけれども、それぞれが実績と実力を突き重ねたうえで、あのときのメンバー同士で剣を交える。さらに言えば、その後に自分たちを追いかけてきた強い後輩――たとえば菊地孝平や銀河系軍団の面々――もそこにいる。まさに10数年前にSGで覇を競った戦友たちと、多くの経験をふまえて戦う一戦なのである。最高峰の景色を知った者には、そこに強烈な重みが見出される。そんなことがあっても不思議ではないし、だとするならやはりマスターズチャンピオンは最高だ。
あまり見せることのない3カド戦という戦略も、そうした思いの結実だっただろうか。狙っていたのはもちろんまくりだったはずだが、かなわぬと見るやすかさず卓越した差しハンドルに切り替えて先頭に立ったのは、まさにグランプリ覇者の凄まじい技量と言える。思いと技が絶妙に噛み合って、白井は念願のタイトルを手に入れた。そういうことだ。
そういえば、白井は将棋好きとしても知られている。だとするなら、名人という称号にも特別な響きを覚えているかもしれない。少なくとも来年のマスターズチャンピオンまでは、敬意をこめて白井名人と呼ばせていただこう。(黒須田)
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